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<1/8> 「先生、今度の試合でわたし、落とされそうで恐い」と、小柄でかわいい女の子二人が、そろってそんなことを言う。二人共、中学3年生で柔道をしている。「この前はNさん(S中)が落ちたし、Sさん(L中)も落ちた。その前の大会ではTちゃん(G中)。それにXちゃん(R中)が落ちたときは、かなりの時間人工呼吸をしてもなかなか戻らなかった」。最初何の話なのかよくわからなかった。よく聞くと柔道で絞め技をかけられ失神することを、落ちると言うらしい。つまり彼女の今度の対戦相手であるSさん(L中)が絞め技が得意で相手をよく絞め落としているということなのである。そして絞め技を使う生徒は力が強いのか、大体決まっているとのことである。 |
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「絞められたらギブアップすればいいじゃないか」と言うと、「そんな恥ずかしいことは、女子では見たこともない」と言う。自分が見たのは男子のX君(X中)ぐらいだと言う。絞められた時、苦しくて畳を叩いたとのことである。強い選手なのに、ギブアップしたのでよく覚えているのだと言う。確かに柔道の顧問としても、気絶するまで全力で闘うように指導しないと、強いチームには育たないのだろう。 |
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そう言えば私も高校時代に格技で柔道を習った。毎日のように受け身の練習をした思い出は今でも忘れられない。そしてこの受け身はその後の人生において、転倒するたびに何度も無意識のうちに使用させてもらい、非常に役立ったと思っている。おかげで、これといったけがは一度たりとない。 |
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「女子柔道」(大修館書店発行)で調べてみた。「絞め技は、相手の頚部を腕や脚を使って絞め、頚動脈、頚静脈、気管を圧迫する技です。危険が伴います。特に女子は首が細く、絞まりやすいので注意しましょう」。十字絞めのポイントのところに「腕の力だけで絞めようと思わず、体を寄せて、体重で圧迫して絞めます」とある。これでは小さい子なら簡単に呼吸まで止まってしまうだろう。とにかく十字絞めというのは、柔道着の襟で相手の首の横を通っている頚動脈を圧迫し、脳への血液の流れを止める技である。脳細胞がだんだんと酸欠になりそのうちに意識は遠のき、やがて失神してしまうということである。同時に、頚静脈も圧迫されるので、脳の血液が心臓に戻らず、脳や顔にたまってしまうので、顔面が見る見るうちにうっ血し腫れ上がっていくのだそうだ。そして3分も血液の流れを止めれば相手を確実に脳死状態にさせることも可能であろう。 |
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更に驚いたことがある。裸絞めである。「柔道衣を握らずに、手首を使って気管を絞める技です。無理に力で絞めようとすると、気管・頚椎などを痛めることもあるので、十分注意しましょう」とある。3分も相手の呼吸を止めれば死亡させることもできるのではないか。そして無理に力を入れ過ぎると頚椎を痛めるだろうし、喉頭や気管の軟骨も折れ、即入院ということも考えられるのである。大体において勝つか負けるかの試合である。小さな生徒が十分注意しながら、やさしく首を絞めたりするのだろうか。ちょっとでも力を緩めたりすれば、反対に自分の首が絞められるのは目に見えてわかっているのである。大人なら手加減ということができるが、中学生のすることである、全身の力をふり絞って絞める子が、中にはいると考えてもおかしくないのではないか。現に数年前に、中学の男子生徒であるが、試合中に絞め技をかけられ、その時の後遺症で大学病院に入院したと言う話を、ある医者から聞いた。頚椎損傷だと思うが、どのように補償したのかと思った。そして言えることは、絞め落とされた生徒の生命は、審判の判断一つにゆだねられているということである。<1/8> |
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