<2/8> 女子中学生の場合、体格にかなりの差があり、思いっきり力まかせに首を絞められた場合、苦しくて痛くてどうすることもできないのではないか。そして初めてかけられたときは、絞めから逃げられるかどうかの判断もできないであろう。そして動けば動くほど首が締まるので、身動きもできない。とにかく呼吸ができないので、苦しくて、苦しくて、何が何やらわからないと思う。もがいているうちに目の前が白くなり、なんとも言えない、いやな気分で暗闇に吸い込まれていく。そしてスーという感じで失神するのだと言う。
私は最初、絞め技も押さえ込みと同じであり、30秒間絞められれば勝負ありだろうと思っていた。しかし驚いたことに、この絞め技は相手が失神するまで行われるとのことである。もし審判が失神していることに気付くのに、1秒でも遅くなればそれだけ脳の障害を起こす可能性が増大するのである。 ↓
 「心臓病」(同文書院)で調べてみた。「人間にとって最も重要な臓器は脳です。安静時、心臓から送り出される血液量の約15%が脳に供給されます。もし何かの理由で重大な異常が起こり体内を流れる血液量が極端に少なくなったときでも、他の臓器への血液は減っても、脳への血液はできるだけ減らないように自律神経によって巧妙に調節されています。それほど脳は体の中で特別に大切にされているのです。心臓が一時的に止まって、脳への血液が3秒から5秒間ほど途絶えますと、脳細胞は一時的に“貧血”状態となりその活動が低下しますので、意識がスーと遠くなります。脳への傷害はまだ比較的軽くて済みます。もし7秒以上の間、脳への血液が途絶えますと完全に意識がなくなり、10秒以上ではけいれんを起こし始めます。3分以上途絶えれば脳細胞は全く死滅してしまい、二度と生き返らないでしょう。この後に心臓が動き始めたとしても、脳以外の細胞は生き返りますが、脳細胞が生き返らなければ、意識は二度と蘇りません。ただ息をしているだけの植物人間の状態となります」
 確かに、「相手を倒し、死亡させる」これが格闘技の原点かもしれない。もう少しで相手を失神させ勝つところだったが、力を緩めた為逆襲され負けてしまった。こんなことを避ける為に、相手が失神してしまったことを十分確認できるまで、自分の持ち得る限りの力をふり絞って絞め落とすのかもしれない。だから絞め落とした生徒は、自分が必死なだけ相手がいつ失神したのかはわからないのかもしれない。
 私は、勝負を鮮やかな1本勝ちで決めた場合は勝利の気分にひたれると思う。見ている我々も確かにその強さと爽快さに拍手を贈りたい気分でいっぱいになる。しかし、判定で勝った場合は、力の差はわずかであり、何か物足りなさを感じる生徒もいるのではないか。それに対して、相手を絞め落とした場合は、目の前に今まで敢然と自分に立ち向かってきた相手が、もはや動かずに死んだように失神し、横たわっているのである、勿論再びこちらに立ち向かってくることもない。まさに自分の意のままにどうにでも相手を処理できるのである。相手を完全に手に入れた満足感もあるかもしれない。そして生と失神のあいだのその断層の不思議さにしびれるような戦慄にふけることだろう。自分は圧倒的に強いのだと感じるだろうし、勝者の喜びとして、これ以上酔えるものがあるだろうか。<2/8> ↑
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