4 高校数学の学習法【2】 (秋山 仁)
(T) 数学の学習法 ↓
 一番肝心なことは、毎日コツコツと勉強すること。
そして、一冊全て読みきることである。
しかし次の5つのどれかが抜けていても、
良い点数はとれない。
(1) 教科書の内容を理解している。
(基礎知識の充実)
(2) 個々の問題特有の本質を見ぬくことが出きる。
   (数学的センスをつける)
(3) 持てる知識を活かして使える。
(思考力の養成)
(4) 計算を速く間違えないでできる。
(計算技術の習得)
(5) 色々な解法を知っている。
(テーマ別解法の整理)
(U) 数学的センスとは何か
 せっかく勉強しても、数学的センスがないと
検討違いの方針や筋の悪い解答を作ってしまう。
センスの良い解答とは、
その問題の本質を捉えた上手な解法のことをいう。
数学的本質には次のようなものがある。
(1) 対称性
自然界には対称性をもつものが、たくさんある。
人の体型、チョウチョやカブトムシ、振り子。
2次関数は線対称。
3次関数は点対称。
方程式が対称式なら、x+y=X、xy=Yとおく。
すなわち対称性があるのに
それを無視して守備よく問題を解こうとしても、
それは的外れなのである。
(2) 次数
次数が低いほど扱いがやさしい。
つまり、方程式や関数に関する問題を解く際に、
最初に留意すべき点は、
“次数が何次か”ということである。
それによって、解法は異なる。
(3) 偶奇性
ある整数が偶数か奇数かという性質を偶奇性と呼ぶ。
整数問題を解く際、
その整数の偶奇性について注目するのは、
基本中の基本である。
偶奇性に注目すれば、
2.3分で解決する問題を、注目しなかったばかりに30分、
1時間と時間を浪費して、
そのあげく、
1年を棒に振ることになるかもしれない。
ある整数が偶数か奇数かということは、
その数を2で割ったときの余りが
0か1かということに他ならない。
偶奇性を一歩推し進めた概念に剰余というものがある。
すなわち、ある整数をpで割ったときの余りは、
0、1、2、…、p−1のいずれかであるから、
余りに注目すれば解ける問題もたくさんある。
(4) 単調性
関数や数列には、単調性という性質がある。
すなわち、x<yなる任意のx、yに対して、
f(x)≦f(y) が成り立つとき関数 f(x)は単調増加である。
関数 f(x)を微分するというのは
f(x)の単調性を調べることに他ならない。
また数列{an}の階差an+1anがすべてのnに対して正ならば、
この数列は単調増加である。
単調性に基づき首尾よく解ける問題は多い。
(5) 周期性
日本の四季は春、夏、秋、冬の順に毎年繰り返される。
心電図や脳波も曲線も周期的である。
このように、自然界や数学の中には、
周期性が繁雑に現れるのである。
例えば、ある整数をpで割ったときの余りは、
0、1、2、…、p−1、0を周期的に繰り返えすのである。
3角関数y=sinx, y=cosx, y=tanx などは、
周期関数の典型である。
グラフを描いても周期的になっている。
そして周期性を見抜くことは、
先を予測することにもつながる。
(6) 関数に関するその他の大切な性質
連続性、
微分可能性、
凹凸性
などの3つの性質は
きわめて大切である。
(7) ベクトルの1次独立性
2つのベクトルa,b、(a,b、≠0)が与えられたとき、
それらが互いに平行か否かを見極めるべきである。
平行でないときは互いに1次独立であるといい、
そうでないときは1次従属であるという。
1次独立ならば、
平面上のどんなベクトルpに対しても、
pは、p=α・a+β・b (α、βはある実数)という形に、
ただ1通りの方法で表せるのである。
このことに基づき、
多くのベクトルや図形の問題が解けるのである。
(8) 変換の線形性
1次変換、微分、積分などには線形性という便利な性質がある。
すなわち微分や積分において、
{αf(x)+βg(x)}’=αf’(x)+βg’(x)
∫{αf(x)+βg(x)}dx = α∫f(x)dx+β∫g(x)dx
が成り立つ。
線形性を一言で表現するならば、
ある大きな荷物A(=α・□+β・△)を
fによってどこかに送るとき、
Aをバラバラに解体しておいて、
□をα個、△をβ個を別々にfによって送り、
送られた場所で組み立てても
全く同じものf(A)ができることを意味している。
この有り難い性質をフルに利用することが
問題をスムーズに解くことにつながる。
(9) 変数と定数の識別
文字xが式や関数の中にあるとき、
それが変数なのか、定数なのかを識別しなければならない。
同様なことが平面上、あるいは空間内の点Pについてもいえる。
点Pが動点か、定点なのかは事態を大きく左右する。
難問を上手に解く方法の一つは、
変数をある時点で固定して(定点とみなし)、
その後、再び変化させる方法である。
またΣ(和をとる)、
f '(fを微分する)、
∫(積分する)、
lim(極限をとる)
などの記号がある。
これらは、どれも何を変数とみるかということが大切である。
すなわち、どの変数について
“和をとる”、
“微分する”、
“積分する”
または“極限をとる”
のかを見極めないと
論点がボケてしまうのである。
(10) 未知数の個数と方程式の本数の大小
連立方程式において、
未知数の個数αと
本質的に異なる方程式の本数βの
大小に注意しなければいけない。
例として、次の連立方程式について考えよう。
X+2Y =  5  …  @
2X+4Y = 10 …  A
上で本質的に異なる方程式の本数と書いたのは、
次の意味である。
Aの式は@×2より導けるので、
方程式の本数βは1であり、
未知数はX、Yの2個なのでα=2である。
αとβの大小には次の3つの場合が考えられる。
 α>βのときは、解が無数に存在する。(不定)
 α<βのときは、解が1組も存在ぜず。(不能)
 α=βのときは、ちょうど1組の解が存在する。
(11) むすび
他にも、方程式と恒等式の違い。
扱っている集合の要素の個数が
有限個なのか無限に存在するのか。
考慮している世界が1次元(直線上)なのか、
2次元(平面上)なのか、
3次元(空間)なのかを
捉えることなども重要である。
 なにはともあれ、
センスの良い解答を作るためには、
問題文を読んで、
その問題には上述のどのような性質が
潜んでいるかを的確に把握し、
その性質が解決の糸口になるのだ
ということを忘れてはいけない。
(V) 考え方を身につけよう。
 数学の問題を解くために一番重要なことは、
何といっても考える力である。
つまり、定理や解法を全て暗記したとしても、
試験で良い点数がとれる保証などない。
すなわち知識をもっていても、
問題が解けるとは限らないのである。
授業を聞いて先生の話しがよく理解できることや、
本を読んで内容をよく理解できることと、
試験で良い点数がとれることとは必ずしも一致しない。
すなわち、“物事を理解する力”と
“問題を解決する力”とは
異なるのである。
授業や本で勉強するとき、
次の具体的なことに常に留意しなければならない。
1 先生(本の著者)は、どのようにして、
その解法を思いついたのか。
2 先生(本の著者)は、
どのような理由で式を変形したのか。
3 他に、もっと良い解法はないか。
4 自分の解法では、なぜうまくいかなかったのか。
5 問題のどの点がその問題を難しくしているのか。
すなわち、その問題(の条件など)を少し変えれば解けるのか。
6 知識(定理や公式)がなくて解けなかったのか。
以下に、より具体的な形で
問題解決のための“考え方”を書く。
(1) 規則性やパターンを見出せ
難問に直面したとき、
どこから手をつけていけばよいか、
不明なことがよくある。
そういうときは、簡単で特別な場合だけでも、
片っ端から調べてみる。
具体的に手を動かすうちに、
問題の構造が分析できたりする。
“対称性”“単調性”“周期性”が
浮き彫りにされることがよくある。
(2) 処理しやすくする工夫をする
 (a)図、グラフ、表、流れ図、樹形図
などを書き、視覚に訴える。
 (b)答案用紙、下敷き、鉛筆、消しゴムなどを利用し、
具体的に状況を実現する。
時には、消しゴムを切り、
4面体、立方体、直方体、8面体を作り、
考えやすくする。
 (c)補助線、補助色などを利用する。
立った1本の補助線で鮮やかに解けた
あの快感を忘れるな。
 (d)問題をより易しい問題にすり替える。
 (e)具体化せよ。
例えば、Σkという抽象的な記号よりも、
1+2+3+…+n
としたほうが分かり易い。
(3) 分類したり、整理して考える。
物事をいろいろな見地に立って整理することが、
その問題の背後に潜むカラクリを解き明かすのである。
ある命題を証明するのに、
“場合分け”の戦略を使う。
これはまずコマ切れにし、
その1つ1つのコマ切れを食べやすくしておいて、
最終的には全部を片付けてしまうという方法である。
 (a)場合分けの必然性がある時の場合分け
 整数問題のとき、
整数nの偶奇によって場合分けしたり、
2つのベクトルa,bを扱う問題において、
aとbが1次独立であるか否かで場合分けをする。
これらは、場合分けをしなければ、
議論が続かなくなるのである。
だから、「議論の展開が変わる分岐点はどこか」
ということに注意しなければならない。
 (b)上手な場合分けをする
 場合分けの鉄則は、
全ての場合を尽くすことにある。
すなわち“モレ”があってはいけない。
  [1]対称性を考慮し、
できるだけ少ない場合に分ける。
  [2]“であるとき”と“でないとき”というふうに、
排反なペアーに組んで場合分けをする。
  [3]樹形図を利用して、場合分けをする。
 (c)易しい場合から順に決着をつけ、
すでに証明した場合の結果を利用する場合分け
(4) どんな証明法を選ぶか
 (a)証明問題のときは、
証明すべき結論を念頭において解答を作れ
 (b)対偶を証明せよ
 “P→Q”を示すのが困難なときは、
対偶命題“-Q→-P”を示せば良い。
 (c)背理法のテクニックを習得せよ。
 当たり前のことや、
証明の手掛かりがない問題を証明するとき、用いる。
証明が終結するのは、
何らかの矛盾が生じたときである。
しかし、背理法の達人になるには、
矛盾を仕留める罠の仕掛け方
を覚えなくてはならない。
 (d)帰納法の使い方をマスターせよ
 無数にある命題群Pnを
いっきょに証明してしまおうという武器が
帰納法という証明法である。
原理はドミノ倒しと同じである。
 (e)逆戻りせよ
 最終の目的地(結論)にたどり着くためには、
その目的地から逆の道筋にたどっていくのが
最良の方法なのである。
(5) 効果的な記号や座標を導入せよ
 数学とは抽象化の学問だという見地からいえば、
記号はその際たるものである。
エキスパートになるにはうまい記号を導入し、
記号をロボットに見立てて、
このロボットを縦横無尽に活躍させ、
簡単に問題を解こうという作戦を考える。
また、適切な座標系を導入することも肝心で、
その多くは対称性に起因している。
(6) 問題文から解法のカギを割り出せ
 limΣ・1/nが出てきたら、きっと定積分にもち込むだろう。
和と積の関係を論ずる問題にぶつかれば、
まず相加・相乗平均の関係が使えないか調べるだろう。
このように、問題文から解法に必要な
道具(カギ)[定理や公式、原理など]が
割り出せると、
それらの道具を使って、
推論を進めたり、
式の変形をすることが首尾よくできる。
(7) 出題者の誘導にのれ
 問題の中には、
いくつかの小問に分かれている問題がある。
これは出題者が、
受験生にいきなり解かせるのは難しいと判断して、
問題を段階的に分割して、
そのステップを踏んで解いていけば、
必然的に解決するように
意図していることが多いのである。
(8) 最短距離の解法を探れ
 例えば、nが自然数で奇数なら、
a-a X dx=0
偶数なら、
a-a X dx=2 ∫a0 X dx 
を利用するのは、積分のときの鉄則である。
対称性をうまく利用して、
面倒な計算を飛躍的に短縮で来ることもある。
入試という限られた時間内で
問題を解かなくてはならない者にとって、
計算の手間をはぶく、
さまざまな手法、
考え方を身につけることは
きわめて大切である。
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